一駅目

 私は生まれた時からオタクだ。だからもちろん「超特急」というグループの名前を、私は高校生の頃から知っていた。

 部活で友人と他愛もない話をしている時に「超特急ってファンのことを8号車って呼ぶらしいよ」という話題が出たのを、なんとなくだが覚えている。だから私の中で超特急と言うと、面白いグループ、くらいの印象しか無かった。

 それからもう5年以上が経つが、半年ほど前までは、私が超特急に対して持っている知識はそれだけで変わらないままでいた。それがこの一ヶ月で怒涛のアップデートを果たし、初乗車を迎えることになる。これはその記録だ。

 

 超特急という名を久々に目にしたのは、二、三ヶ月ほど前、あるドラマの出演者の名前を見た時だった。私はBLドラマが好きである、と言えば何を見たかは察して貰えると思う。最初に超特急の中で顔を覚えたのは4号車の彼だった。そのドラマを一週間程度で履修し、ドラマ公式TikTokや、色んなコンテンツを見るうちに、演じる彼自身が魅力的な人だと思った。

 けれどこの時点ではそこまで深める勇気はなく、ただのドラマ好き止まりで終えていた。今思えばもったいない。

 それから直ぐに新しいBLドラマが始まった。またもや超特急の人が出ているらしい。超特急の皆さんはBLドラマ界に貢献しすぎているのではないだろうか。

 今度は可愛い顔をした14号車の彼が出ていた。ドラマを毎週楽しみに見て、オフショットも見ていたし、彼を見る度になんて可愛い子なんだろうと思っていた。まだ若いのに演技も上手いし、何より役にものすごく合っている。だが、それでも私はドラマを楽しむ一視聴者の枠を超えることは無かった。

 

 私がその枠から踏み出すきっかけになったのは、たまたまTikTokであるMVを見たことだ。

https://vt.tiktok.com/ZSNbx9JYG/

(厳密に言うとこの動画ではなく広告だったのだが、直ぐにプロフに飛んでこの動画を見た)

 

 「Lesson Ⅱ」それが私の運命を変えた曲だった。

 見た時に、まずは純粋にすごく好きな曲だなと思った。サビのメロディ、音の作り方、全部が私の好みだった。そしてよくよく見ればドラマで見ていた彼がセンターでめちゃくちゃ踊っている。つまりこれは超特急なんだと気づいて思ったことは、超特急ってこんなに踊るんだ!?だった。

 その時の私の超特急のイメージは、BLドラマにものすごく貢献してくれているおもしろグループには更新されていたものの、そこ止まりだったので、Lesson Ⅱのコンセプトのかっこよさにも、ダンスの揃い方にも、驚きしか無かった。私の中の超特急が大きく変わった瞬間だった。

 それから、色んな動画を見ていった。Lesson ⅡのMVはもちろん、次に知った「MORA MORA」も私の心にぶち刺さりだったので、Lesson Ⅱと併せて、YouTubeTikTokもたくさん見た。Lesson ⅡとMORAMORAだけが入ったプレイリストを作り、毎日狂ったように聞いた。

 その頃に見て、またひとつ衝撃を受けたのがこの動画だ。 

 

超特急「バッタマン」Sweetest Battlefield 神戸ワールド記念ホール 

https://youtu.be/aeywqyPJ9TA?si=4E7vlxvAsdHJ401S

 

 超特急のことをおもしろグループだと思っていた過去の私はやはり間違っていなかったらしい。

 残念ながらセンターで暴れて輝いている彼はもういないらしいが、それでもこの勢いをライブで出せるのはすごいと思った。ここまで吹っ切れる人達だったんだ。

 この人たちを応援するの、楽しそうだな。

 そんな純粋に抱いた感情で、私はさらに色んな動画を見漁り始めた。

 ただ、ひとつ気がかりだったのは、私には既に人生をかけて応援している推しが存在していることだった。ドラマを見るだけに留めておいたのも、その人が一番であることを譲りたくなかったからだ。それともうひとつは一番惹かれているハルくんが年下で、18歳という年齢だったこと。私は生まれてこの方年下を推したことがない。一度子どもを支える仕事を目指した身だからか、どこかでブレーキがかかってしまっていたのだと思う。だから、見るとしてもほどほどに、FCに入るのもまだ早い…そう思いながらも、プレイリストや視聴履歴に超特急を増やしていく日々を数日過ごした。

 超チューバーや一人一人の動画コンテンツのおかげで、段々と顔と名前も一致し、誰がどんな立ち位置で、どんな関係値なのか、少しずつ把握していった。EBiDANのライブ映像も見始め、後輩グループまで覚え始めた。そんな頃。またしてもTikTokでひたすらスクロールして動画を見ている時に、超特急募のドキュメンタリー動画が流れてきた。

 誰が映っていたのか、どんなことを話していたのかはもうあまり覚えていない。けれど確かにその動画を見た私は、静かに泣いていた。

 ただのエンタメのひとつとして見ようと思っていたのに、自分はこの人たちを思って涙が流せるんだと思った。この瞬間、私は観念したのだ。今の推しももちろん大事だが、それとは別にこの人たちのことをちゃんと応援しよう、そう決めて11月ももう終わる頃に、私は夢の青春8きっぷを手にした。

 

 YouTubeTikTokでコンテンツを漁っていた私は、その場所を夢8へと移し、またひたすら彼らの動画を見漁っていた。仕事の合間に超旅を見て、ジムに行けばEBiDAN the LIVEを見ながら走り、すっかり日常の一部に彼らを組み込んでいた。

 そんな時に、ぴあアリーナMMでのライブのチケットトレードがあると情報が入った。知った時には完売していて、諦めていた公演に行けるチャンス。こんなの行くっきゃないだろ。

 チケプラ継続12ヶ月以上、ゴールド会員である私の名義はしっかりと火を噴いて、私は12月9日公演の切符を手にすることが出来た。夢8に入ってわずか一週間の出来事である。

 チケットを手にしたのが12月5日、いきなり初乗車が週末に迫り、好きな曲しか聞いていなかった私は焦りに焦った。プレイリストに歌いそうな曲をガンガン入れて、ひたすら聞いた。定番曲の振り付けも覚えたくて、動画もたくさん見た。でも一番問題だったのは、何色のペンライトを振るかだった。

 先に書いたようにハルくんに一番惹かれていた私だが、コンテンツを見れば見るほど超特急全員が愛しくてたまらなくなっていた。リョウガさんのトークの心地良さが好きだったし、タカシさんの笑顔が大好きだったし、アロハくんの顔がシンプルにめちゃくちゃ好みだし、タクヤさんは超特急と私を結んでくれた運命の人だった。この5人の中で私は揺れに揺れていた。

 まだ知って一ヶ月、9人もいてまだみんなのことをちゃんとしれた訳でもないのに、誰か一人になんて絞れない。初めて生で見るのだから気持ちが変わるなんて十分に有り得る。そんな悩みは横浜駅に向かう電車の中でも晴れず、あまつさえ物販列に並んでいる時にすら私は悩んでいた。

 結局私が買ったのは紫、白、オレンジのペンライトだった。アクスタは先の5人を、そしてぬいはハルくんのだけちゃっかり買った。

 普段の推しもよくライブをする人だから、ライブの現場には慣れているが、超特急の現場はどことなく暖かい雰囲気がした。みんな自分の推しのカラーをどこかに忍ばせて、ところどころメンバーの顔面がプリントされたトートバッグを持っている8号車さんがいるのが愉快で良かった。ライブも始まらないうちから楽しい気持ちにさせてくれるなんて最高だ。

 そんなこんなをしているうちに開演の時間がすぐそこまで迫っていた。

 

(以下少しだけT.I.M.Eのネタバレを含みます)

 

 時計が進む音が会場内に響く、長針が12を差して、モニターが割れ9人の姿が現れる。そんな開幕の様子を見ていて、国を作っているのか…?と思った。こんなの建国でしかない。ペンライトの海の頂点に君臨する9人の出で立ちはまさに王様のようで、私はすでに呆気に取られていた。もはや悲鳴すらあげられない。目の前で起こることを脳に伝達して、覚えることに必死だった。何度もペンライトを振る手を止めてしまった。蛇に睨まれた蛙の如く、あまりの強さに圧倒されて身動きが取れなかった。一曲目から彼らが話し始めるまで、ずっと目の奥で涙を堪えているような、ひとしずくでも落ちれば溢れ出てしまいそうな、感情がいっぱいいっぱいになる感覚がした。

 昔大きな大きな絵画の前で立ち尽くしていた時のことを思い出していた。私は「T.I.M.E」という強大な美しい作品に出会ってしまった。

 

 必死に覚えようとはしたものの、3分の1ほどは知らない楽曲だった。でもそれに不満は無い。楽曲を初めて聞くのがライブだったなんて、そんなに恵まれたことは無い。周りの8号車さんがイントロから動揺しているのを見て、この曲はみんなにとって大事な楽曲なのだと思って聞いていた。いつかその感情が私にもわかる日が来たらいい。

 先に書いたように私が彼らと出会ったのはLesson Ⅱがきっかけだった。だからその曲を見れただけで元が取れたと思うくらいに十分だった。同じ空間で見るパフォーマンスの美しさに私の感情は決壊して、涙を流しながら見ていた。この曲に出会えて、超特急に出会えてよかったと心から思った。

 

 後半に行くにつれて、楽しい楽曲が増えていき、聞きたいと思っていた「バッタマン」や「超えてアバンチュール」もやってくれた。動画を見まくったおかげでコールもできたし振りも真似できた。動画を見て楽しそうだな、と思っていた想像の何倍も楽しかった。

 そんな「バッタマン」では、ハルくんが大暴れする。もっと言えばその前にハルくんのソロのターンがあって、それはそれは可愛いことをする。それを見ている時、画面越しで見るのと同じ愛おしさを感じながらも、ひとつのしがらみが解けていくのを感じた。

 もう年齢なんて関係ないんじゃん。

 先に書いた気がかりだったことが、ライブを見ていたらどうでも良くなってしまった。こんなにも全身全霊でパフォーマンスをしている彼に、こんなにも心を揺さぶってくれる彼に、18歳だから、とかいう年齢のレッテルは不要な事だった。彼にも失礼だと思った。ハルというひとりの人間を応援したい。

 そうして私は帰って直ぐにハルくんのキラリに入るわけである。

 

 ハルくんのキラリと、もうひとつリョウガさんのキラリに入った。これもライブ中の演出がきっかけだった。

 私はリョウガさんのトークに特に惹かれていたので、リョウガさんがソロのコーナーにしていたことは、まさに画面の前で見ていた彼そのもののように思えた。この人はどこまでも私のツボに刺さるらしい。かっこいいダンスも見てみたかった気持ちはあれど、あんなにたくさんの人がいる会場を笑いで包み込める、そんな力を持つ彼のことが好きだと思った。

 正直言えば9人全員のキラリに入りたいくらい、一度のライブで私から超特急に対する好きの感情は倍増していた。絶対にいずれ他の人のも入るから、その分頑張って働くしかない。

 タクヤさんの持つオーラは画面越しでなくとも唯一無二の存在感を放っていたし、タカシさんの歌声はあの大きな会場でも変わらぬ美しさと深さを持っていた。アロハくんのふとカメラに抜かれた時の表情で心臓が鷲掴みにされる感覚がした。カイさんの白金の髪、全員の姿を見たときに真っ先に目がいったのは彼だった。ユーキさんのダンスの力強さ、視線の強さは心を真っ直ぐに貫いてくるし、シューヤさんの高音を聞くと心も体も震えるようだった。マサヒロさんのダンスは素人目でもわかるほどに技術力が高い。

 上記の文はノンストップで書き出した。まだまだこんなものでは足りないくらいにはそれぞれ魅力がある。とんでもないグループを知ってしまった。

 

 きっとこれからもっともっと超特急のことを知って、もっともっと好きになっていくのだと思う。初乗車した後、8号車の皆さんがセトリに入った曲の意味を解説してくださっているのを見て、その当時を知るわけでもないのにまた涙を流しそうになってしまった。

 たくさんの歴史があって、たくさんの苦悩も乗り越えて、別れがあって出会いがあって、それでも「超特急は今幸せです」と言って笑顔をくれる彼らに、もっともっと幸せになって欲しい。夢8歴たった一ヶ月の私がそんな風に思うのだから、このまま一緒に時を重ねていけば、この気持ちはさらに大きくなるのだろう。

 このレールの先に何があるのか、今は楽しみで仕方ない。たくさんの偶然の積み重なり、巡り合わせで超特急に出逢えたことに感謝。ありがとう世界。